診療所・クリニックを医療法人にするタイミング

今後の医療経営について

 近年医業を取り巻く環境は、新規開業の増加、医療機器の高額化に加えて患者が医者を選ぶ時代になり、地域に根差した理想の医療サービスを提供していくためには、多くの資金を蓄積していく経営がますます必要になっていくことが考えられます。

経営の方向の一つとして、個人経営にするか法人にするか悩む方も多くいられます。
両者は経営上大きな違いがあるため、今後の経営にどんな可能性が考えられるのか十分検討していく必要があります。

以下では、医療法人のメリット・デメリットについてまとめてみます。
今後の経営方針を決定する上での判断材料にして頂ければ幸いです。

医療法人化のメリット・デメリット

◆医療法人化のメリット

(1)医療法人化すると、医師である理事長に給与を支払うことになります。その場合給与所得控除が受けられますので年収1500万円以上なら、245万円の給与所得控除が認められます。

(2)医療法人化すると、家族が理事になれば理事としての給与を家族に支払うことができます。個人で開業している場合は基本的に現場で働いてくれた分に対して給与を支払うことになりますが、医療法人の理事の場合医療法人の運営に携わっている分についても給与を支払うことができるため支給額を増やすことができます。これにより家族の所得が分散され結果として税負担が低くなり家族全体の可処分所得が増えます。

(3)個人で開業している場合は基本的に医師や青色専従者に対して退職金を支払うことはできませんが、医療法人化すると、院長や理事に対しても退職金を支給することができます。退職金は普段の給与に比べ税制面で優遇されるため、老後の蓄えとして計算できます。

(4)医療法人化すると、理事の生命保険料を法人として契約できるため、個人の負担が減りさらに節税効果も見込めます。

(5)医療法人化すると、分院設立や介護事業への事業展開が可能になります。

(6)個人の場合、所得税と住民税あわせて最高55%の税率で課税されますが、医療法人化すると、法人税等は実効税率およそ35%ほどに抑えられます。

(7)医療法人は、相続対策・事業承継に適しています。個人の場合、事業承継するためには一つ一つの資産の譲渡手続きや各種申請手続きが新たに必要になったり、相続の際には多額の相続税がかかってくることがありますが、医療法人の場合は、出資持分を計画的に譲渡・贈与することで、相続対策や事業承継をスムーズに行うことができます。

(8)医療法人化すると、社会保険等の福利厚生が充実し社会的信用力も高まるため、優秀なスタッフを雇用する際には個人より有利です。

 

◆医療法人化のデメリット

(1)医療法人化すると、社会保険に強制加入となります。これにより従業員の社会保険料の半分を法人で負担することになるため、費用負担が増加します。(個人であっても従業員が5人以上の場合、社会保険に強制加入となります)(2)医療法人化すると、出資持分についての財産権がなくなります。平成19年に行われた医療法改正により、これから設立する医療法人については持分の定めのない医療法人とされました。これはつまり法人の解散時に残った財産は国や地方公共団体に帰属することになるということです。そのため解散するまでに給与を増やすなどして積極的に財産を使っていく等の対策が必要になってきます。(3)運営管理が複雑化します。
・病院会計準則に準拠した決算書の作成
・都道府県知事に「事業報告等提出書」の提出
・資産の総額の登記と登記後の都道府県知事への報告
・役員の任期が最長2年。2年ごとの登記手続き
(4)個人で加入していた小規模企業共済は、医療法人になると加入できないため脱退する必要があります。
(5)医療法人設立の手続きが煩雑です。申請から医療法人の開設まで短くとも半年程度の期間が必要になります。

 

診療所を医療法人にするタイミングと、その判断ポイント

 以上をまとめると医療法人は税金面での利点や、事業展開や事業承継のしやすさにメリットがあると言えますが、個人に比べて運営管理のコストが増加するというデメリットがあると言えます。

これらのことを踏まえ医療法人化すべきかどうかは以下のような点が鍵になってくると思います。

①社会保険診療報酬が5000万円を超えるかどうか(社会保険診療報酬の所得計算の特例制度を受けられるかどうか
②これからどのような医療経営をしていきたいか(幅広い事業展開を視野に入れているかどうか)
③次の世代に見通しがあるかどうか(受け継ぐ人がいるかどうか)

 


ここまで読んでいただいてありがとうございました。
次回もよろしければご覧ください。

 

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